2018.10.04

アニメ『ラディアン』放送開始記念対談

日本のマンガに影響を受け、マンガスタイルで『ラディアン』を描き、それが日本でアニメになったトニー・ヴァレントさん。日本のアニメに魅力を感じて来日し、日本のアニメ界で活躍するロマン・トマさん。そして、フランス語圏のマンガ、バンド・デシネ作品を日本の出版業界で翻訳出版をしているフレデリック・トゥルモンドさん。

日本のマンガやアニメに影響を受け、それぞれの分野で活躍されるフランス人の三人から見たアニメ『ラディアン』について語ってもらった。(2018914日収録)

プロフィール

写真中央:トニー・ヴァレント

1984年、フランスのトゥールーズ生まれ。「ラディアン」からマンガスタイル作品を発表し始める。フランスでは現在第10巻まで刊行中。

 

写真左:ロマン・トマ

1977年フランスのブザンソン生まれ。デザイナー、イラストレーター、アートディレクター、演出家。主な作品に『オーバン・スターレーサーズ』(共同監督)、『アクエリオンEVOL』、『マクロスΔ』(背景・メカニックデザイン)、『スペース☆ダンディ』(メカニックデザイン)など。Studio No Border株式会社代表。

 

写真右:フレデリック・トゥルモンド

1978年パリ郊外レ・リラ生まれ。1999年に初めて日本を訪れ、2003年より日本で暮らす。『ラディアン』のほか、数多くのバンド・デシネ作品を日本語版として発売する、EUROMANGA合同会社代表。「海外マンガフェスタ」の実行委員長も務める。

アニメ『ラディアン』第1話を見て

つい先ほど視聴者のみなさんに先んじてアニメ『ラディアン』の第1話の試写をご覧いただいたわけですが、いかがでしたか?

『ラディアン』の世界がアニメになって動いているのを見るのはなんだか不思議な気持ちですね。音楽がついたり、キャラクターに声が当てられたりしていて、とても生き生きしていました。

もちろん僕の頭の中や心の中に元々存在していたものなんだけど、自分自身が作ったものを観客として自分で見ることはありませんしね。

1話については、アニメオリジナルの部分があって、必ずしも原作と同じではないんですが、いち観客としてそれを見て、とても気に入りました。

私も第1話を見て、とてもいい作品だと思いました。とにかくキャラクターが魅力的ですね! 同じフランス人としてこのアニメの原作者がフランス人だというのは誇らしいですよ。

私自身が日本に来たときのことを思い出しますね。もう15年以上前のことになりますが、自分のアニメを作りたくて日本に来たんです。私の場合、元々マンガを描いていたわけではありませんが、トニーさんが感じた不思議な気持ちも少しわかる気がしますね。

それにしてもこの第1話を見ると、この世界のことをもっと知りたくなりますね!

オープニングとエンディングを見ただけでも、こんなにいろいろなキャラが出てくるのか、これは豊かな世界観を持った作品だなと思いました。

オープニングはリズムがノリノリでワクワクしますね。トニーさん、期待通りでしたか?

いや、僕は特に何も考えてなかったから(笑)。

でも、オープニングテーマは先に聴かせてもらっていて、聴いたとたんにオープニングアニメのようなイメージがパッと思い浮かびましたよ。

日本のマンガやアニメとの出会い

記者会見ではいろんな質問があがっていましたね。トマさんが聞かれていて感心した質問や逆にびっくりした質問などありましたか?

「あなたはフランス人なのになぜマンガを描くのですか?」という質問がありましたね。

多くの日本人はフランス人がマンガやコミックスを描くなんて思ってもみないから、それが自然なのだと思いますが。日本人は概して、自分たちの文化が外国に影響を及ぼしているのだということをあまり理解していないと思います。

あるいは、フランスが世界で二番目に大きな日本のマンガの市場であるということや、子供たちはみんな日本のマンガを読むということをね。

マーベルやディズニーの映画を除けば、日本文化と肩を並べられるようなものが海外にはたいしてないということもあるんでしょうけど。

きっと日本人の多くは、たくさんの外国人が日本文化にどっぷりつかっているなんて想像もつかないんでしょうね。でも改めて考えてみると、僕がこれまでに見たものや読んだものの78割が日本のコンテンツですよ。

マンガを読んで育ったんですね。何年生まれでしたっけ?

1984年です。

僕やトマさんより下の世代ですね。

『ドラゴンボール』世代です。

私たちはその前からいろんな日本のアニメを見ていた世代ですね。そのあと『ドラゴンボール』がやってきたんです。当時私は10歳でした。

僕は直撃世代でしたね。ブームになっていた『聖闘士星矢』は僕らより上の世代が見ていて、より年下の僕らの世代は『ドラゴンボール』に殺到したものです。最初はアニメから入って、その後マンガも読むようになりました。

フランスのマンガ事情

ところで、『ラディアン』をフランスで出版するのは難しくなかったですか? 何しろ日本のマンガのスタイルで描かれているじゃないですか?

『ラディアン』を売り込んでいたときに、多くの出版社から興味はあるけれどウチではできないと言われました。フランス人が描いたマンガスタイルの作品はそれまでにもいくつかありましたが、あまり売れてなかったんです。

それでもどうにか出版してくれるところを見つけることができました。

今、アニメ化のこともあって『ラディアン』は好調で、ようやくフランス人が描くマンガをめぐる状況が変わりつつあります。フランス人が描くマンガをシリーズ化して出す出版社もいくつか出てきました。

近い将来、日本でアニメ化されるフランスマンガが他にも出てきますかね?

そういう作品がいくつか出てきても不思議はないですね。『ラディアン』だけがアニメ化されるのも妙な話じゃないですか。ただ、アニメ化されるためには、まずそのマンガが日本語に翻訳される必要があるでしょうね。

実は、『ラディアン』のような力強いフランスマンガを見つけるのはとても難しいんです。日本の読者は要求が高いですからね。優れた日本のマンガやアニメに馴染んでいるから、とても目が肥えているんです。その点、『ラディアン』は最初の巻から優れたクオリティに到達していたと思います。ただ、それは一朝一夕でできることではありません。

トニーさんも『ラディアン』を出版する前には、アルレストンやタルカンといったバンド・デシネの大作家と10年間一緒に仕事をして下積みをしていますよね。だから僕は、フランスマンガの新しい流れに関しては楽観視できないなと思っています。

『ラディアン』のような作品が再び登場するかもしれませんが、それでも今キャリアを始めた作家たちが成熟するには長い時間が必要でしょうね。

フランスでは多くの人がマンガスタイルの絵は簡単に描けると誤解しているところがありますね。実際は逆でしょう。膨大な作業量が必要ですし、多くの技法を我が物にして描かなければなりません。とても難しいですよ。トニーさんが描いたイラストやカバーを見せていただきましたが、どれもすばらしいですね。

アニメ『ラディアン』の特色

トマさんは日本でアニメの仕事をするプロですが、そのプロの目から見て、アニメ『ラディアン』第1話で、ここは日本のアニメ的だなと感じる個所はありましたか?

日本独特の絵コンテと演出ですね。詳しく説明すると長くなってしまうので立ち入った話はしませんが、日本のアニメというのは細部にまで配慮が行き届いた実に巧妙な型を持っているんですね。

日本でアニメの仕事をしている監督やアニメーターは、もう何十年もテレビアニメの仕事をし、毎週作品を送り出すことに慣れています。そして視聴者が何を期待しているのか心得ています。

物語をどこで加速し、どこで減速するか、このシーンにはより力を入れ、このシーンは少し力を抜くといったことを知りつくしているわけですね。

あらゆるノウハウがあって、それが1話の中に詰め込まれている。それで続きをもっと見たいとなるわけです。

トニーさん、先ほど自分の作品の観客になったのは初めてだというお話がありましたが、アニメ版は『ラディアン』の世界に何か新しい要素をもたらしてくれたとお考えでしょうか?

そう思いますね。自分が好きなマンガを読むとき、その作品はとても生き生き感じられます。でも、『ラディアン』を描いていると、僕はキャラクターに寄り過ぎていて、一歩下がって見るということができなくなってしまうんです。だから、僕の手からこぼれ落ちてしまう要素がたくさんある。

アニメでは、キャラクターだけでなくこの世界全体が画面に映し出されています。例えば、第1話では、主人公のセトがロープに吊るされて壁を洗っているシーンがあります。マンガとは違って、アニメでは背景までよく見えます。月だって見えるし、空間があってそこにキャラクターがいる。そのうえ物音が聞こえたり、音楽が入ってきたり、色があったり……。つまり、あらゆる感覚に訴えかけてくるんです。これはアニメならではのものでしょう。

アニメではリズムも決まっていますしね。マンガは自分のリズムで読むことができますが、あらゆる音響効果に声優の声、動き回るキャラクターたちに音楽……。これらはマンガにはない広がりをもたらします。

トニーさん、声優さんの声についてはいかがですか? 日本語がわからないから、ひょっとしたら上映中少し寂しい思いをされたかもしれませんね。

脚本は翻訳してもらって覚えていましたからね。おかげでここではこうしゃべっているんだなってわかりましたよ。

かえって音や音楽に集中できてよかったかもしれませんね。どう思われました?

音も音楽もすばらしかったです!

オープニングやエンディング、BGMなどの音源を事前に送ってもらっていて、それ以来ノンストップで聴き続けているんですが、これぞ『ラディアン』の世界の音楽という感じですよ。

作曲家の方が作曲したというよりは、彼が既にあったものをどこかで見つけたんじゃないかと思うほどです。なんなら僕の心の奥底を探って、音楽を構成する要素を拾い集めていったんじゃないのかって……。それくらいどの曲もすばらしい。思いもよらないほどに僕の心に響くんです。

セトの声もばっちりですね。あれこそセトの声です。あらゆる要素が全体を補強し合っていると思います。

たしかにあらゆる声、効果音、音楽がすばらしかったですね。このアニメの強みのひとつだと言ってもいいんじゃないでしょうか。セトを演じている花守さんは特によかった。

特に気に入ったシーンがひとつあります。セトがつぶされそうになるシーンです。

冒頭にコミカルなシーンがたくさんあって、そこが最初のシリアスな瞬間なんですね。そこでこのアニメのポテンシャルが感じられ始める。

日本のアニメの強みは、緊張感が走ったり、感情が溢れ出したりするこうした瞬間にこそあります。フランスのアニメに足りないのはそういうところなんですよね。

コミカルな作品だとギャグばかりで何も後に残らない。その点この作品は紛れもない日本のアニメで、そこまでのシーンを踏まえて、強烈な緊張感を感じることができるんです。

そういえば、アニメ『ラディアン』の第1話には、原作にないシーンがいくつかありますね。トニーさん、どう思われました?

実は想像していたものとかなり違ったんです。もちろん脚本は事前に読んでいましたが、僕は普段マンガを描いているから、原作にないシーンを脚本で読んでも、ついマンガの形で想像してしまうんですね。ところが、実際にアニメになったものを見てみるといい意味でまったく違っていて、脚本を新たに読み直すような新鮮な気持ちになりました。

特に今トマさんがお話しされたセトがつぶされそうになるシーンですね。

脚本にはたった二行で「セトがつぶされそうになる。彼はうっと声を上げる」とあるだけなんですが、それが最終的に20秒のアニメーションになると、リズム感を伴ってとても効果的に語られる。今回はその違いがはっきりわかりました。

アニメチームは脚本に書いてあるごく簡単なことから、さまざまなノウハウを使って、こんなにすごいものを作ってしまうんだって感動しました。

アニメチームとの関係

アニメチームとはどんなふうにお仕事をされたんですか?

『ラディアン』の世界観やその歴史、僕がそのどこを選びどこを選ばなかったかについて、多くの質問が投げかけられ、何度もやりとりしました。アニメチームは僕の物語の中心と哲学をきちんと理解しようとしてくれたんです。

それから彼らはアニメシリーズを貫く軸を僕に提案し、エピソードの積み重ねを通じて、どんなふうに物語を展開したいか説明してくれました。

基本的な部分が固まると、脚本が1話ずつ送られてきて、僕のほうで適宜コメントを入れ、いくつかの点について議論をしていったんです。

Web会議で毎週打ち合わせをして、そのやりとりの補足をしました。何度かデザインのチェックもしましたね。必要があれば修正の指示をしました。

自分でデザインもしたんですか?

ここをこう修正してほしいなどと説明するときに直接絵に描いてみたりしましたね。

そうするとアニメチームが、僕の意図を理解して描き直してくれて、新しいデザインを提案してくれるんです。

回想シーンに出てくるキャラクターを二人分デザインしたりもしましたね。背景のチェックもしました。

トマさん、原作を描いたマンガ家がこのようにアニメに深く関わることはよくあることなんですか?

私が知る限りではかなり珍しいことですね。

そもそも日本のマンガ家さんは、アニメ化の企画が立ち上がったときに連載中のことが多く、そこまで積極的にアニメに関われないのではないかと思います。

さまざまな確認をするということはあるでしょうけど、ここまでするのはめったにないのではないでしょうか。

私自身、いくつかマンガのアニメ化企画に関わっていますが、マンガ家さんからフィードバックをもらったことはありませんでした。

アニメ『ラディアン』がもたらす意味や影響について

トマさんの知る限り、フランスのバンド・デシネやマンガでは『ラディアン』が日本でアニメ化された最初の作品なのでしょうか?

何年か前にフランスのSFバンド・デシネの『ヴァレリアン』がフランスの市場向けにアニメ化されたことがあって、当時私が所属していたサテライトという日本のスタジオが制作を担当しました。私はそのプロジェクトには関わっていなかったのですが、キャラクターデザインにしてもストーリーにしても、オリジナルを踏襲したものではありませんでした。『ヴァレリアン』の中にあったいくつかのコンセプトを自由にアニメ化したものという感じで。だから、フランス人作家の作品の忠実なアニメ化は『ラディアン』が最初なのかもしれませんね。

ただ、日本の視聴者の皆さんには、フランス人のマンガ家が作った作品かどうかなんて気にしないで見て楽しんでもらいたいですね。

私たちは子供の頃、日本のアニメをフランスのテレビで見ていたわけですが、当時、それらが日本からやってきたものだなんて必ずしも知りませんでした。日本の子供たちだって、アニメの『ラディアン』を見て、フランス人が作っているかどうかが問題ではないでしょう。

世界観が面白いから、キャラが魅力的だから、ストーリーが面白いから、そういう理由で評価されてほしいですね。

アニメ『ラディアン』は世界中で見られる予定です。トニーさん、ご自身の作品が世界中で知られることはうれしいことですか? それとも不安ですか?

僕はいつだって心配性なんです。

『ラディアン』のマンガが日本で翻訳されると決まったときも不安で仕方ありませんでした。今回も同じです。多くの人が気に入ってくれるといいんですけどね。何しろチームのみんなが全身全霊を込めてアニメを作ってくれていますからね。僕だって全身全霊を込めてこの作品を描いています。僕もチームのみんなも報われるといいなあ。

問題はアニメがまだ放送されていなくて、視聴者のみなさんの反応がわからないってことです。不安で不安で仕方ありませんよ。ここまでの仕上がりには大満足で、だから希望を持ちたいところだけど、今のところ僕の心の90%を不安が占めています。

これまでの『ラディアン』のマンガの読者の中心は、青少年から青年層だと思います。一方、アニメはNHKEテレで毎週土曜の1735分から放送ということもあり、少年少女たちもたくさん見てくれることになると思います。

トニーさん、『ラディアン』のアニメを見る子供たちにどんなメッセージを受け取ってもらいたいですか?

『ラディアン』が描いているのは自分と異なるもの、違うものとの関係です。子供たちがそうした問題に興味を持ってくれるといいですね。

1話では、魔法使いたちが他の人たちと違うという理由で少し差別を受ける様子が描かれています。物語の続きでは、同じことが移民や出自が異なるキャラたちにも起きていきます。

おそらく日本の社会はこうした問題にフランスほど直接的にさらされてはいないかもしれません。だとすれば、この番組が他の地域で起きていることを理解する鍵になってくれたらと思います。

一見軽くて面白おかしい物語の中でこうした問題が語られていて、視聴者の心に爪痕を残せるとしたら、すばらしいことですよね。

ファンへのメッセージ

最後に『ラディアン』の原作マンガファンやこれからアニメの視聴者になってくれるであろう人たちにメッセージをお願いします。

まずはアニメ『ラディアン』を見ていただけたらうれしいです。もし原作のほうを知らなければ、アニメをきっかけに知って、実際に読んでくれたらなおうれしいですし、気に入ってくれたら最高ですね。

原作マンガを読んだら、ぜひアニメとマンガの違いを考えてほしいですね。もしかしたらそれが、海外マンガや特にバンド・デシネに興味を持つきっかけになるかもしれません。ね、フレデリックさん?

お手本のような締めの言葉ですね(笑)! お二人ともすばらしいお話、ありがとうございました!

SPECIAL

2019.02.09

原作者トニー・ヴァレントと
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ダイジェスト映像公開

2018年11月22日にアンスティチュ・フランセ東京で行われた、原作者トニー・ヴァレントとアニメ制作チームの対談イベント ダイジェスト映像をYoutubeにて公開中!

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